私がピアノを本格的に始めたのは、6歳の頃だったでしょうか。

 訳も分からず始めたピアノでしたが、気が付けばピアノに支えられて

 現在があるように思います。とはいえ、決して順風満帆にここまできた

 わけではありません。進学の時期には色々な衝突もありましたし、

 険しい壁にあたり、悶々とした時期も長くありました。

 様々なことがありましたが、それでもずっと続けていくうちにピアノと

 少しずつコミュニケーションが取れるようになり、喜びや悲しみ、孤独など

 多くの感情をピアノと共にしたことで私は随分救われ、

 慰められたように思います。

 かくも音楽とは素晴らしい力を持ったものだと感じます。

 

 楽譜と向き合い(他の楽器と比べても、ピアノは特に音符が多いですよね…)、

 音楽をつくり上げることはエネルギーが必要ですが、

 自分で満足の出来る演奏が出来たときの喜びは格別です。

 また多くの作品に取り組むことで、作曲家と時代を超えて対話し、

 それぞれの国の文化にも親しみが湧いてきます。

    情報に溢れた現代では、すぐに手軽な楽しみは手にできますが、ピアノで得られる喜びは

 それらとは違った性質のものです。

 少しでも多くの方と、このような素晴らしい経験や感情を共有できれば、と思っています。

 

 そのようなものを表現するためには、ピアノを弾くための技術だけではなく

 教養を深め、色々な感覚を磨いていかねばなりません。

 ですので、練習するだけでなく、本を読んだり映画を見たり、

 美味しいものを食べたり、様々なものに触れてほしいと願っています。

 そしてその経験は、たとえ音楽を専門とする道に進まなかったとしても、

 大変価値のあることです。ひとつのことに集中して取り組み、

 自身の限界まで粘り強く努力し、様々な視点から掘り下げていく姿勢は

 他の分野でも活かされることだと確信しています。

 

   生涯を通して、音楽やピアノを愛し、豊かな人生を送れるよう

 ご一緒に歩んでいけると幸いです。

 

 ただ、矛盾するようですが、練習は定期的にきちんとしなくてはいけません。

 音楽を演奏するのも、表現するのも体を通して行います。

 頭でいくら「こうしたい!」と思っても、指がついていかなくては

 自分の思いを表現することはできません。

 水泳やお習字等、他のお稽古は教室に通えば上手になりますが、残念ながらピアノは

 毎日の練習の積み重ねによって上手になっていくものです。

 しかし努力しただけ上手になり、時代を超えて作曲者と繋がれたような感覚を味わい、

 奥深い世界を感じられ、素晴らしい体験ができます。

 そこに到達するためにも、練習は欠かすことができないものなのです。